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プロフィール
HN:
謡 陸葉
性別:
女性
職業:
社会人1年生
趣味:
読書・観劇・スポーツ観戦
自己紹介:
活字と舞台とスポーツ観戦が大好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
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高校生男子×2
日高と真史
『闇が手招く』補完用にup
文字書きさんに100のお題より。
真史は闇が~でやっと苗字が出来たけど、日高には未だに名前がないという悲劇(笑)
*******************************
[お題83:雨垂れ]
もしも、この世界から俺を含めた全ての人間が消えて彼だけになったら、そしたら。
その時には、彼は泣けるのだろうか。
それとも。
「大丈夫か」
そう、声をかけたのはただ一度だけだったと思う。
躊躇いながらじっと彼を見ていた俺に返ったのは反対に俺を心配する声と、謝罪と、この上もなく柔らかな微笑だった。
その日以来、俺は彼にかける声を捨てた。
その代わり、俺だけは見ていようと思った。
彼の笑顔の裏側を。
「なぁ、日高は?」
「しらねー」
そんな会話が教室の反対側から聞こえて来た。
俺は全く違う会話を続けながらちらりとそちらに視線をくれる。
今のクラスになってから、ずっと彼とつるんでいる連中だった。
俺とは違う中学の出身者。つまり、彼とも違う。
この高校に俺と彼━日高と同じ中学の出身者は少ない。
当時、日高と同じクラスだった人間となればもう片手でも指が余る。
( 屋上だよ )
声に出すことなく答えを投げてやる。
教えてやった所でその言葉の意味を理解する奴はここにはいないのだ。
静かに冷たい雫が窓を叩く。
騒がしい教室の中で、多分俺だけがその音を聞いていた。
「真史?」
「あ、悪い。俺今日は部室行くから」
「んだよ、由美子と?」
「バーカ。じゃあな」
同じ部の女子の名前を出して冷かす友人を置いて、俺は部室へ行く道とは逆に階段を登った。
一段一段、ゆっくりと確かめるように登っていく。
そうでもしないと、雨の湿気に当てられた体が前へ進むのを拒みそうだった。
少しずつ空気の温度が下がっていく。
僅かな段差を残して顔を上げると開け放った扉に背を預けてしゃがみ込み、日高がそっと雨を見ていた。
口元には相変わらずゆったりと笑みが刻まれている。
いつも思った。
息を呑む程美しく、そして、不快な光景だと。
『泣かないでね』
その言葉は、まるで呪いだ。
「冷えるぞ、日高」
「そうだな。寒い」
だったら早く扉を閉めろと言いたくて、言えない。
日高は言葉とは裏腹に左手だけを戸外に突き出して静かに雨を受け止めた。
掌に溜まった雫が、すぐに流れ出して日高の制服の袖を濡らす。
「やるんだって?ハムレット」
「あぁ」
「楽しみにしてる」
人好きのする彼の柔らかな微笑が、俺は嫌いだった。
本当にやりたいのはお前だろ、と。
言ったらまた彼は笑うのだろう。困ったように、ただ。
もう一度彼を舞台の上へ引きずり出せば何かが変わるだろうか。
敵わないことだと知っていて、願わずにはいられなかった。
彼はもう舞台を降りたのだ。
二度と帰っては来ない。
彼の頑固さを誰よりも知っている。
彼の優しさも、愛の深さも、大人びた価値観も、未熟な世界も。
「ひどい雨だな」
「明日は晴れるらしいけど」
怪しいな。
目を細める日高がどちらを望むのか俺には分からなかった。
青い空のどこか遠くを見つめ、冷たい雨をじっと眺める彼が。
この雨の中に駆け出して行けたらどんなにいいか。
雨は体温を奪う変わりに、耐え切れずに漏れる声も頬を伝う雫も、全てかき消してくれるだろう。
そうすれば彼は笑ったまま、泣ける。
「弱き者よ、汝の名は女」
憎しみの言葉を溢した俺に、日高は苦笑を返しただけだった。
「レイアティーズの死が、君の罪になりませぬよう。君の死がレイアティーズの罪になりませぬよう」
呟いたのは、日高の方だ。
神が自殺を禁じなければ、と、悲劇の王子は嘆いたけれど。
そんな束縛のない世にあって、尚もその選択を許さない彼の心が何に向かうのかが、恐ろしかった。
泣けよと、言ってやれない自分がもどかしい。
言えば彼はまた笑うだろうから。泣けないなら、せめて笑って欲しくはなかった。
日高が雨を見つめるのは、泣いているからだ。
彼の優しさゆえに、溢すことの出来ない涙を雨の中にそっと吐き出している。
彼が泣かないのは、泣けないのは。
彼の周りにいる人々が彼を気遣うのを慮っての事。
彼の大切な人が残した言葉が、それに追い討ちをかけている。
もしも、この世界から俺を含めた全ての人間が消えて彼だけになったら、そしたら。
その時には、彼は泣けるのだろうか。
行く当てのない疑問が胸を掠めた。
「戻るぞ」
「あぁ、うん」
ちらりと時計に目をやってから、日高が静かに立ち上がる。
すでに階段を降り掛けていた俺を追い抜きざま、明日は晴れるといいなと、彼は、そう言った。
2006.2.11
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