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プロフィール
HN:
謡 陸葉
性別:
女性
職業:
社会人1年生
趣味:
読書・観劇・スポーツ観戦
自己紹介:
活字と舞台とスポーツ観戦が大好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
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以前から謡の作品を読んで下さっている方にしか理解できないものを、書いてしまいました・・・。
しかも、暗い。鬱々。

今回は以前から画策していたようにぽろぽろと書いてきた人々をやっとこ一つに繋ぐ事が出来ました。
ずっとこれがやりたかった。
『残された人』、『残した人』、『残された人を見守る人』それぞれに事情があり、思いがある。
全ての事情を知りえるのは謡と彼らの話を読んで下さっている方々だけ。
リアルではそんなポジションの人はいないので、悲しいすれ違いや摩擦があって当たり前で全てががしっと重なることなんて有り得ない。
別々だった世界を重ねることでそんなところが表現できればいいと思っています。。
なんか凄い、魔性の子(by小野主上)を書いてる気分でしたよ。


とりあえず補完用に『雨垂れ』を発掘しましたのでこれだけ読んで頂ければ裏は分からなくとも話はわかるはず。


あぁー・・・・・もっとすっきりと書ける様になりたいな。









・・・・・闇が手招く・・・・・





確かな理由など覚えてはいないが、真史は出会った頃から彼が気に入らなかった。
嫌な奴なのではない。
むしろ人なっこく明るいムードメーカーである彼は常に数人の友人に囲まれているような人気者である。
あえて言うならその明るさが真史の癪に障ったのかも知れない。
真史とて徒に人を嫌う人間ではないのだが、彼に関しては自分でもわからぬまま苛立ちだけが募った。
彼は、日高にとって有害だ。
真史にはそう思えてならない。


冬の盛り。
2日降り続いた雪は今朝から雨に変わった。
姿の見えない日高を探しに屋上へ向かう途中、グラウンドの片隅に設けられた洗い場に彼がいた。
申し訳程度に掛けられた屋根からは容易に雨が入るだろうに、彼は一向に気に止めてはいないようだった。
彼が一人なのは珍しい。閑散とした洗い場と彼が明らかに不釣り合いだった。
彼は動かない。
真史は眉をひそめて目をそらした。
彼は動かない。
手を洗っているのはわかる。
しかし動かないのだ。両手をしとどに濡らしながら、ただじっと立っている。
真史にはそれが緩慢な自傷行為に見えた。
刹那、日高の濡れた左手が脳裏を過ったのを息を詰めてやり過ごす。
真史は来た道を戻りながら忌々しげに一つ舌打ちをした。
今は、日高を叱責しないでいられる自信がなかった。


彼が不快だ。
由美子に漏らすと彼女はきょとんと真史を見返した。

『彼は、いい人だと思うけど』

そう言う由美子に真史はいいやと首をふる。

『あいつは、笑ってるだけで何も面白がっちゃいない。あいつは、そこにいるだけで何も見ちゃいない。とんだ偽善だ。』

彼を日高に近付けるなと口走る真史に由美子は心底呆れた目を向ける。
由美子は真史が見た彼を知らない。
ただの無邪気な男だと思っている。その事実が余計に真史を不快にさせた。
もしかしたら彼の裏側を知っているのは真史だけなのかも知れない。
彼はその明るさの裏に巧みに闇を隠している。
全く性質が悪いと真史は胸のうちに吐き捨てた。

『あなたは日高をみくびってる。日高は、それを受け入れないわ』

固い声に驚いて由美子を見返すと睨み付けるように強い視線とぶつかった。
真史は日高に過保護だと、度々由美子は口にしたがそれはもっと茶化すような、呆れたような柔らかな口調だった。
真史の頭が少し冷えたのを悟ってか、由美子はすぐに元の調子に戻って言う。

『それに、私はやっぱり彼はいい人だと思う。彼が少し引っ掛かるのは私も同じ。
でも不快に思ったことはないわ。彼は多分、笑えないのよ。それこそ笑う自分が不快なのかも』

『俺には、いつも無責任に笑ってるように見える』

『彼の笑顔が本気じゃないのは多分ホント。でもそれなら日高だってそうでしょ』

『それとこれとは』

『同じよ。少なくとも私には同じに見える。日高の笑顔にも彼の笑顔にも、私は泣きたくなるのよ』

悲しげに目を伏せた由美子は話は終ったとばかりに静かに本を繰り始めた。
そうなるともう真史には何も言うことができない。
彼女が彼を『いい人』だと言うのは、彼女が『いい人』だからだ。
真史には己がどうしようもなく情けない者になったような気がした。
笑えない彼。
泣けない日高。
そんな言い方をすれば、本当に二人が酷く似通った者のようではないか。
由美子は正しいのかも知れない。
でも真史にはどうしても彼と日高が全く同じようには見えなかった。


真史にとって不幸なことには、日高と彼は同じ委員会に所属していたので度々二人で仕事をしていた。
彼らには彼らの真史には真史の仕事があり、まさか常に張り付いている訳にもいかない。
真史がどう思っていても、付き合う人間を選ぶ権利は日高にあることは由美子に言われずとも分かっていたので彼らが一緒にいる場面に出くわしてもいつもなら真史が特別何をすることもなかった。
用があるなら近づくし、何もなければそのまま通り過ぎる。
今回もそのつもりだったのだ。
でもふと風に乗って聞こえて来た声に真史の理性は何処かへ飛んでしまった。
気付けば二人の間に割って入り、驚いた彼の顔を睨みつけていた。手が出なかっただけ自分を褒めてやりたい。

『日高は、雨が嫌い?』

『ん?』

『たまに、泣きたそうな顔してるから』

それを聞いて、日高が笑う。
いつもの優しい苦笑が真史の吐き気を誘う。
やめろと、叫んだかも知れない。実際には声になっていなかったかも。
雨の日の日高を彼が見ていたことに驚きはしたが、見ていて踏み込んだ彼が一層許せなかった。
彼は、やはり日高にとって有害だ。

『え、川瀬?』

零れ落ちるんじゃないかと言う程に見開かれた目。
日高がとめる様に名を呼んだが頭に血が上った真史がそれに答えることはない。

『俺は、生きようとしない奴が嫌いだ』

『え・・・』

『生きたくても生きられない奴がいるのに、生きることに必死にならない奴が大嫌いだ。
そいつが死んだって、必死になって生きたって生きられなかった奴がどうなるものでもないし、必ずしも生き続ける事だけが偉いとも言わない。価値観はそれぞれだ。
でも、俺は嫌いだ。生きてることを当たり前だと思ってる奴が気に食わない。まして、生きているのに死にたがる奴は論外だ。
俺は、そんな奴に日高の傍にいて欲しくない』

『・・・・・・・』



『俺はお前が嫌いだ、芦那』



背後で日高が息を呑むのが分かった。
いつの間にか真史を掴んでいた腕が小さく震えている。
それが怒りか悲しみか判断できず、真史は振り向かなかった。
ただじっと目の前の小柄な彼、芦那鐵を見ていた。
戸惑いに歪んだ眉、彼を象徴するように奔放にはねた癖毛もどこか勢いがないように見える。
彼は泣くだろうと思った。
それだけの言葉を投げつけた自覚が真史にはあった。
だが真史の予想を裏切るように芦那の両目は徐々に細められ、薄い唇は見慣れた半月を作る。
彼の白い首に巻きついたシルバーの鎖が鈍く窓からの光を反射した。

『ごめん』

壮絶な、自嘲。
真史の全身に鳥肌がたつ。その瞬間に真史を支配したのは紛れもない恐怖だ。
腐臭がする。
真史はこんな笑い方をする人間を他に知らなかった。
腐臭がする。
彼は、日高と同じなんかじゃない。由美子、と、真史は友人の名を呼ぶ。
少しも似てはいない。こんな闇は知らない。こんな。
引きずり込まれる。
真史は唐突に悟った。
彼の何がこんなに不快で、有害だと思ったのか。
真史は恐ろしかったのだ。日高が、彼と同じ場所まで落ちて行ってしまうことが。
真史がいくら手を伸ばしても引き上げることの叶わない所。
彼の持つ闇は、それほど深い。

『芦那!』

掛けられた第三者の声で真史は我に返った。
見ると、いつの間にか同じクラスの日向が芦那の後ろに立っている。
今自分のいる場所が学校の廊下なのだと当たり前のことを意識して真史はほっと息をついた。
やっと腕を放した日高が軽く真史の足を蹴飛ばす。

『日向』

『芦那、彼女が探してたよ』

『え、ホント?』

『うん、行って来な』

『ありがとうー』

もう一度ごめんと真史を見た彼からはもういつもの明るい雰囲気しか感じられなかった。
日高が彼に笑いながら手を振って、彼はそれにちょっと遅れて応える。
その僅かな間がさっきまでの出来事が夢ではなかったと言っているようだった。

ぱたぱたと走り去る背を見送りながら日向が呟く。

『川瀬、言いすぎじゃね?』

『聞いてたのか』

『聞こえた』


『ごめん』

謝ったのは日高で、真史は憮然と日向を見返していた。

『別に、日高が謝ることじゃないじゃん。それより、これに懲りずにこれからも芦那と仲良くしてやってよ』

『もちろん』

『日高!』

『真史が芦那を嫌いでも、俺は芦那が嫌いじゃない。だから、俺は怒ってる』

『っ・・・』



『川瀬は、芦那の事情を知らない』

なんとか日高に言い募ろうとする真史を遮った日向の声は酷く悲しげで、何かを後悔しているように聞こえた。
でも、それを言うなら日向だって真史の、日高の事情を知らないではないかと言おうとしてやめる。
そんなものは誰にでも当てはまることだと思ったからだ。
人は、他人の全てを知ることなどできはしないし、真史とて誰彼構わず知って欲しいとは思わない。

『芦那は、生きたくないんじゃないよ。多分ね』

そう言えば、日向と芦那は同じ中学の出身だったはずだ。
もしかしたら当時そこで何かがあったのかも知れない。


『自分が、生きていていいのかが分からないんだ』



(彼は多分、笑えないのよ。それこそ笑う自分が不快なのかも)
そうなのかも知れない。
でも、彼が抱えている事情がなんであれやはり真史には彼を素直に受け入れることなどできなかった。
日高はこれからも芦那と変わらぬ付き合いをするだろう。
真史も、変わらず彼を毛嫌いしそれに見ないフリをするし今日のように日高に踏み込むことがあるなら、誰が止めてもまた彼に暴言を吐くだろう。

それでも、となんとなく3人で連れ立ってその場を後にしながら真史は思う。

いつか彼の闇が消えればいい。
そう簡単なものではないだろうけれど。
それでも彼は生きている。
生きているなら、その時が来ないとも限らない。



彼の持つ闇は有害だ。
あの闇が彼を全て飲み込んでしまう前にその時がくればいい。
それが叶わないのなら、自分は日高を引きずってでも連れて逃げよう。


( ごめん )


脳裏に残る謝罪の言葉を、真史は身震い一つで記憶の奥底へと押しやった。









******************************


通学時間にちまちまと書いていたら全く終りませんで焦りました。

鐵と日高の世界はいつかもっと穏便な形でつなげようと思っていたのですがなんだか一番暗い所で融合してしまいました。
日高は鐵よりも圧倒的に大人で、強い。彼の過去に何があって真史と由美子がどう係っているのかは書いていないけれどなんとなく、何かあったんだなぁって思ってて欲しいくらいなので詳細を書く気は余りありません。

今回はなんか、真史だけがアホのようになってるけど。嫌わないでやって下さい。彼は基本冷静な理詰めタイプです。頭で考える役者。由美子は感覚で悟る役者。そこの違いが今回の二人の見解の差です。
鐵の彼女さんは、謡の娘っこではないので書く気はないです。そこはほら、気が向いたときにでも紗羽に是非鐵の彼女とのラブラブを書いて頂きたいですな(笑)


彼らの原典を一応紹介。
芦那鐵(あしな・まがね):千夜一夢物語(天華楼さんへどうぞ)、菜の花
川瀬真史(かわせ・しんじ):からっぽの掌雨垂れ
由美子:からっぽの掌
日高:アトラスに会った七夕祭り
日向岬:踪跡(サイト未up)



極たまぁ~にしか書かない彼らですが、その世界はどんどん謡の中で確かなものになっていっています。
楽しいのは謡だけ。ホント、すいません。愛が尽きない上、勝手に成長していく彼らを放って置くことが出来ないんです。
彼らを通して、言いたいことがまだまだたくさんある。
生涯一表現者。
由美子や真史が言うように、生きている限り表現したいものが尽きることはありません。
まぁ適当にお付き合い頂きたく。



今、ここに生きる喜びを。
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