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謡 陸葉
性別:
女性
職業:
社会人1年生
趣味:
読書・観劇・スポーツ観戦
自己紹介:
活字と舞台とスポーツ観戦が大好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
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大学生黒羽と工藤

 

日付が変わる。
年が、明ける。
さぁ、第2章を始めよう。



*************************



ひどく冷える夜だった。
街は深夜にも拘らず活気に満ち、閑静な住宅街にあってさえざわざわとしたどこか浮き足立った空気を纏っていた。
あと2時間もすればちらほらと人影が現れ始め、すぐに喧騒の中に沈むだろう。
今日は大晦日だ。
完全に明かりの消えた家の方が珍しい。
笑い声が時々いたる所から響いてくる。
温かい夜。
ただ外気の温度だけがひどく低かった。

ふわふわと定まらない雰囲気の中であっても、深夜の公園はひたすらに静かだ。
暖を取るために買った缶コーヒーはとうに冷え切って逆に熱を奪っていく。
抜け出してきた年越しパーティーの戦利品を入れたビニール袋がわずかな風に応えて傍らでカサリと揺れた。
その音でさえも大きく響いたような錯覚を起こすほどの静寂が落ちている。
1時間ほど前まで居た場所とのギャップに己の位置を見失いそうになった。
これは夢か幻か。それともさっきまでの胸焼けするほどの明るさが偽りか。
呼び出しだと言って出てきたけれど、本当にそうだったら良かったと思った。
一人になりたかったのに、今は何かに忙殺されていたいと思った。
また、一年が終わる。
そう思うと、何か良くわからない感情が自分の内に生まれるのを止められなかった。
間違いなく、あの世間に言わせれば夢物語のようなけれども自分にとっては現実でしかありえない経験がそうさせるのだ。
どうしても比べてしまうのだろう。
あの激情の時の中での自分と、今の自分と。
たくさんの物を見た。掛け替えのない友人も得た。
今でもそれは変わらない。それなりに充実してもいる。
でも、と、思ってしまう。どうしても。
何が不満なのか自分でもわからない。
そんな物だ、名探偵なんて呼ばれても所詮はただの人間。
よく言うように、自分のことは分からない。

そう言えば、あいつはどうしているだろうか。
相変わらず時々音を立てる袋をぼんやりと眺めてふと思った。
自分が今の姿を取り戻したのとほぼ同時期、あんなに騒がしかった気障な怪盗が消えた。
いつか捕まえてやるとあんなにも強く思っていたのに、今ではただの思い出になっている。
多分自分とさして変わらない年齢の、奇妙な男。
一度、ちゃんと話をしてみたかった。さぞかし面白い話が聞けただろう。
そう思うと少し残念だ。


「色男さん一人かい?」
何の前触れもなく掛けられた声に心臓が飛び出るかと思った。
相変わらずの静寂。
それを全く壊すことなく目の前に立った男。
不敵な口元に、既視感を覚えた。
見覚えのある顔だ。
確か同じ大学の医学部の学生だったはず。
相当のマジックの腕を持っているらしくその業界から声が掛かっているとかすでに追っかけが付いているとか。
とにかく華やかな話題に事欠かない男だ。
何より底抜けに明るい性格が人を惹きつけるらしく構内の喧騒の8割方を背負っているような印象がある。
そんな男がどうしてこんな日に一人で公園なんぞをほっつき歩いているのか。
手にはどこにでもあるビニール袋一つ。
恐らく自分と同じ状況なのだろうことは容易に想像が付いた。
「法学部年越しパーティーやってるだろ?行かなかったのか?」
「そっちこそ」
「面倒だから抜けて来た」
「あっそ」
人の悪い笑みを浮かべたと思ったら、冷えるなーと両手を擦り合わせて縮まる姿が妙に子供じみていて笑いを誘った。
同じ大学の学生で、お互いに目立つ存在であるとは言え初対面には違いない。
そんな相手を前にして笑うのは流石に失礼だったかとやや外したタイミングで伺うと相手は予想に反して満足そうに笑っていた。
その眼がひどくやわらかいのに驚いた。
そんな笑い方をする男を他に知らない。
「家、この近くなのか」
「あぁ、俺江古田だから」
「近いな」
近隣の公立高校の名前を聞いて納得した。
行動半径が重なっていてもおかしくない。いや、全く重ならない方がおかしい。
明らかに遊ぶ場所は同じ、場所によっては通学路もかぶっているかも知れない。
もしかしたら高校時代に街中ですれ違う事もあったのだろうか。
その時も、彼はたくさんの友人に囲まれて騒ぎの中心にいたのだろう。
そのくせ面倒だという理由で自ら輪を飛び出してくる。
改めて掴めない男だと思った。
「工藤、今暇だろ?遊ぼーぜ」
「寒い」
最初と同じ不遜な笑い方に戻った彼の言葉に、今までぼんやりと一人ベンチになど座っていた事実を棚に挙げて即答する。
と、何がおかしいのか今度は腹を抱えて笑い出した相手に呆れてしまう。
「ホント、お前いつもは虎でも被ってんじゃねぇの」
でも、そんな態度も悪くない。
そう言って、また、笑う。

止めてくれと、叫びそうになった。
その笑い方も、言葉も、気付かぬうちに乱されていた自分のペースに焦る。
確かに、今の態度は普段の自分がただの友人に取る物ではない。
ごく親しい者達だけが知る自分だ。
それを何故、こんなにも自然に。
止めてくれ、目が、離せなくなる。
何も言葉を返せないまま彼を見詰めていた俺を一人置いて、彼は持っていたビニール袋を取り払い、中の物を自慢げに振って見せた。
「だからさ、あったまろーって言ってんの」
「冗談だろ」
「マジですよ。いいじゃんきっと楽しいぜ。一度やってみたかったんだ」
いつの間にか彼の手に握られたライターが外灯の光を反射して申し訳程度に煌いた。
どこにでもある安物のそれが、彼が持つだけで魔法の杖のように思えてしまう。
ガサガザと包装を破り、取り出した一本に勢い良く火をつけた。
先ほどとは比べ物にならない強さで、キレイに色づけされた炎が目に焼きつく。
「時期外れ」
「花火なんて普通にやっても微妙だろ」
「だからって真冬の、しかも大晦日にやるな」
「工藤もやってるじゃん」
「バーロ、付き合ってやってるんだよ。残ったら勿体ねぇじゃねぇか」
「金持ちの台詞じゃないな」
「うっせぇ」
子供のように騒ぎながら炎を振り回し、息が切れるまで笑った。
最後の一本が灰になるまでに、何年か分はまとめて笑った。
12時が近づき、公園の傍を通り神社へと足を運ぶ人々がくすくすと笑う声が聞こえたが、それすらも温かかった。

「疲れた」
「あったまっただろ?」
「・・・まぁ、それなりにな」

後始末を終えてもとのベンチに並んで腰掛け、すぐ傍のざわめきを耳に入れながら二人してぼんやりと空を眺めた。
さっきまで遠慮なく瞳を焼いた炎の色がまだ目の奥に残っている。
それは過ぎた日の残像に似ていた。
どこかの寺が鳴らす鐘の音が聞こえて来る。
一つ一つ、丁寧に、迷いを払うように打ち抜かれるその音に、ゆっくりと目を閉じた。
目の中の残像が一つ一つ消えていく。ゆっくりと、確実に。
最後に残った光の欠片は既に色を持たず、ただ光としてそこにあった。
徐々に遠ざかっていくそれを追うように目を開くと、己を覗き込む瞳とかち合った。

「寝るなよ。風邪引く」
「寝れねぇよバカ」
「はいはい」

からかう様な声を残したまま立ち上がった彼を見上げる。
あぁ、やっぱりそうなんだよな。
時間を重ねるに連れて色を濃くしたかつての好敵手の影をこんなに穏やかに認めてしまう自分はどうかと思う。
でも、そんな言葉しか出ないくらい、彼は自然なのだ。
嬉しくもあり、羨ましくもあった。

「そろそろ帰るわ。知り合いにあったら面倒だし」

今度一緒に初詣行こうな。
いつもは面倒だし、寒いと言って渋るくせに思わず素直に頷いてしまった自分に苦笑した。
それを見てまた嬉しそうに笑う彼の笑顔が可笑しくて、今度は本当に笑った。


「なぁ黒羽、お前と花火やるの2回目じゃなかったか」

「・・・あれは工藤が一人でやってたんだろ。さびしい奴!」


一瞬見えた昔から知っている笑い方。
どちらも結構悪くないと思った。





「なぁ工藤、俺映画の2作目って大抵はくだらなくてキライなんだけど・・・たまにそっちの方がよかったらめちゃくちゃ得した気分にならねぇ?」


「さぁ、試してみねぇとわかんねぇな」




二人して、腹を抱えて笑った。

 














2005年 元旦
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