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HN:
謡 陸葉
性別:
女性
職業:
社会人1年生
趣味:
読書・観劇・スポーツ観戦
自己紹介:
活字と舞台とスポーツ観戦が大好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
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新しい年。
目にした太陽は、どこまでも力強い。





***************************


船の上で予定のない航海を続けていると、日付なんて段々どうでも良くなってくる。
海賊狩りなんて呼ばれていた頃は、町にいれば周りの雰囲気でなんとなく節目はわかったがどこを歩いているのか自分でもさっぱり分からない時なんか、気が付けば年が改まっていたなんてしょっちゅうだった。
その日暮の自分にとって、今日という日の特別な意味なんて興味なかった。
生きていれば、それで。
今も大して状況は変わってはいない。
ただ、常に周りに人間がいるというだけだ。
でも、そのお陰というか何というか、それなりに日付の感覚が分かるようになった。
うちの船はじぶんがいうのも何だが知識層が高い。
新聞を読む奴がいれば年月日もわかるし、イベントに合わせてメニューを変えてくるコックがいればそれなりに気にするようにもなる。
だから、こんな風に意識して寝床を抜け出すのなんて生まれた村を出てから初めてのことだ。
まだ暗いうちから目が覚めた。
実際のところは分からないが、寝付くのが珍しく遅かったから余り寝ていないはずだ。
それなのに、目覚めははっきりとしていた。
懐かしい夢を見ていた気がした。思い出せないけれど。
覚えのある声に起こされたはずだったのだ、自分は。
当然目を開けた先はただの天井で、室内には闇だけが落ち、クルー達の穏やかないびきしかしない。
上体を起こしてわずかな眠気を払う為に軽くかぶりを振る。
ふと、日の光を感じて目を細めた。
だが次に見た扉はキッチリと閉められており、カーテンなど引かれていない船窓からは光の差す気配もない。
眩しいと思ったのは勘違いで、ゴミでも入った痛みをそれと取り違えたのだろうか。
そう思うのだけれども、扉を見詰めているだけで胸の奥がざわざわするのを止められない。
まるでその向こうに、何かがあるような。
全く、馬鹿げている。本当に。
要するに今自分はガキに戻っているのだ。
この一日をひどく特別な物のように感じていた。
毎年この日だけは誰よりも早く起きだして近くの高台へと走った。
真っ暗な中を、ひたすらに胸を躍らせ。
あの時と同じだ。あの高揚感の飛散した欠片が今また己の丹田のあたりでくすぶっている。
ゆっくりと甲板へと足を踏み出すと空気は存外に穏やかだった。
物見台を見上げるが人影は映らない。
今日の当番はルフィだ。大方、今頃は大口を開けて夢の中だろう。
東の空に目を向けると水平線を沿うように極薄く白んでいるのがわかる。
やはり、胸がはねた。







定刻よりも少し早く目覚めると、既にハンモックが1つ空になっていた。
いつもは人一倍よく眠る男が自分より早く起きる事など信じられない。
一瞬、己はまだ夢の中なのだろうかと本気で疑った。
とりあえずお約束どおりほっぺたを抓ってみた。痛かった。
もしかしたら夜の内に酒でも漁ってそのまま戻るのが面倒になり甲板に転がっているのかも知れない。
そう考える方がいくらも現実的だ。
今日は年が改まった最初の日。
朝食から気合を入れて行こうと折角早起きしたのだ。
その時間をあんなアホの為に潰されたのでは堪らない。
早々に見切りをつけて、主のいないハンモックから視線を外して身支度に取り掛かった。
まだ船窓から見えるのは闇だけだがもうじき光がさしてくる。
もたもたしてはいられない。
何事にも余裕を持って動けなければ一流のコックとは言えない。
言い聞かせながら扉を開く。
と、視線を上げた先に件の万年寝太郎の姿を見つけて思わず頭を抱えた。
折角人が思考を断ち切ったと言うのに。つくづく迷惑な奴だ。
一年の始まりだというのに先が思いやられる相手の奇行に、この際だから最後まで付き合ってはっきりすっぱり終わらせてしまおうと意を決して拳を握る。
鼻息も荒く突進した先の奴の顔は、ひどく穏やかだった。
それでいてどこかガキのように落ち着きがない。
何かを期待して胸を躍らせているような、そんな感じ。
危険な局面に置いて、彼がよくしているような物とは明らかに違う。もっと、純粋な。
更に面食らって思わず体から力が抜けた。
好奇心が勝った。
まだ明けない夜の先を見詰め、何を思うのか気になった。
そんなに楽しそうな顔をして、一人で、ズルイ。癪だ。





「よう、珍しいなクソ剣士。年明け早々嵐の心配させんじゃねぇよ」
「テメェも口がへらねぇ」
サンジがいつもの調子で声を掛けるとゾロは船のヘリに腕をかけ、体重を預けたまま視線も動かさずに答えた。
言葉はいつも通りだが、その声の柔らかさにサンジは年が明けてから3度目の衝撃を受けた。
今年は色々とビックリドッキリ満載で心臓に悪い年になるのだろうか。
そんな事を考えながら自分も同じように隣に並び、目線を合わせるように水平線をなぞった。
「何見てる」
「さぁな」
「んだよそれ。喧嘩売ってんのかコラ」
何度となく繰り返した言葉の羅列に、ゾロは喉の奥だけでクツクツと笑う。
やはり調子が違うとサンジは困惑を隠せない。
ますますゾロの視線の先が気になって、今度は幾分強請る様に問いかける。
顔をあわせれば憎まれ口しか出てこないが、やはり邪険にされるのは気に食わない。
それより遊ばれているような今の会話の方がもっと嫌だ。
そして、誰かが勝手に楽しそうにしているのを見るとズルイと思う。
相変わらずガキな部分が抜けないなとサンジは一人自嘲する。
「今日は元旦だ」
「が・・・なんだって?」
「『元旦』だ。俺の故郷で年が改まった最初の日をそう呼ぶ」
ゾロは終始楽しげな表情を崩さずに言葉を零す。
それは見ようによっては状況自体を楽しんでいるようにも思えた。
自分が発した言葉に対し、純粋に感心してみせるサンジにまたニヤリと笑みを深める。本当に機嫌がいい。
幼少期を思い出しているのかその目は水平線を写しているようで、もっと遠くを見詰めているようにも思えた。
「年が改まった時を『正月』、そん時に食う飯が『おせち』だ」
「へぇ、そりゃあ何か特別な料理か?」
コックらしく耳にしたことのない料理にすかさず反応を見せるサンジだが、聞かれた相手はただ『さぁな』としか答えなかった。
祝い事の日に食べるのだから特別な物に違いないのだ。
その内容を覚えていないなど言語道断だと声を荒げようとして、ゾロだと気付いてやめた。
こいつがそんな物を細かく覚えていた方が寒い。
「で?」
「俺は神は信じねぇ」
「・・・・・・・・・・おいクソマリモ、話はつなげて喋りやがれ」
「あ?飯はどうでもいいんだよ。俺のいた所にはめんどくせぇ宗教がいくつもあって、神だの仏だのがわんさかいた。俺はその全部を信じなかったし、信じてねぇ」
「はいはい、だろうな」
「でもよ、大人が崇めるもんで一つだけ納得してたもんはある」
「テメェがか?」
「あぁ」
「へぇ、そりゃまたどこのどなた様だ」
酒か女か刀の錆かと続けるサンジを一瞥し、アレだと視線で促す。
顔を向けた先にはようやく姿を見せ始めた太陽が水面を金色に光らせていた。
サンジはそれを昼間に見るよりも眩しいと思った。見詰められるのに。
夕陽はどこか優しい、柔らかな光を放つ。だが朝日は対照的に力強い。命がそこで燃えている。
そんな気がしてゴクリと唾を飲みこんだ。
「『初日の出』っつー縁起もんだ」
「なるほど、こいつぁ・・・」
すげぇと続けようとしてそれが余りにも陳腐な言葉に思えた。
いつもとなんら変わらぬはずのそれが今日はとてつもなく大きく、逞しく、偉大な物に見えた。
気持ちの問題なのだろうが、圧倒的な力だった。
「どんな奴に願掛けるより、あいつに喧嘩売ったほうが、強くなれる気がした」
今思うと俺もアホだ。
ゾロはそう言って笑った。満足そうだった。
腰に差された3本の刀が挑むように微かに鳴った。
それを聞きながらサンジも『テメェらしい』と笑った。
小さな緑頭の少年があの壮大な熱に向かって挑む姿を想像し、悪くないと思った。
そしてその隣に幼いコック見習いを加えた。悪くない。
「テメェの故郷の習慣はなかなかおもしれぇ。他になんかねぇの」
「・・・・・・一富士二鷹三茄子っつーのがある」
「鷹と茄子は分かるが・・・富士っつーのはなんだ」
「村の周りで一番高い山の名前だ」
「へぇ。で、それがなんだ」
「初夢だ」
「初夢?」
「元旦か二日に夢に見て縁起がいい順番らしい。くだらねぇ」
「なんだそれ、なんだよ茄子って!特産品か!?おもしれー流石マリモを育てた土地だぜ」
キッチンに今もある紫の光沢ある野菜を思い浮かべて爆笑したサンジにそんなこと俺が知るかとゾロは憮然とした声で言った。
そしてひとしきり笑い終わったサンジにそれで夢は見れたのかと聞かれ、覚えてないと答え、更に爆笑されてしまった。
初夢などどうでもいいが、そこまで遠慮なく笑われる筋合いなどない。
もうずいぶんと昇ってしまった朝日を一瞥してゾロは相変わらず腹を抱えるサンジを置いて部屋へと引き返す。
それを見て初めてサンジは声を抑える努力を始めた。まぁ、無駄だったが。ツボに嵌ったらしく笑いは一向に収まらない。
それでもあまり煩くして女性陣の不況をかっては堪らないと思い、どうにか口元だけに笑いを収めて後を追う。
拗ねた様な背中にまた少し口角を意地悪く引き上げ、肩に腕を回して体重をかけた。
重いと文句を言うゾロの耳に口を寄せ、ゆっくりと言葉をつむぐ。



「どーせなら、俺の夢でも見とけよゾロ」






瞬間の面食らった顔をサンジは一生忘れられないだろうと思った。
ばつが悪そうにゆがんだ眉も、そらされた目許も、わずかに紅く染まった耳殻も。


縁起が良くてもよくわからない夢ならどうでもいい。
第一、海賊がそんな物を求めても意味がないではないか。
だったら、好きな物の夢を見たほうが何倍も幸福だ。
そして彼にとってのそれが自分だったらどんなにか幸福な事だろう。





快晴を期待させる太陽を一度だけ挑むように蹴り上げて、サンジは意気揚々とキッチンへ向かった。











2005年 元旦

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