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コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
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その小さな仕掛の中には、確かに世界がある。
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どこかの島に上陸する時、決まって配布される物。
勝手気ままに走り回り、さっきまでいたと思ったのにふいにふらりといなくなる奴らが少しでも問題を起こさない為に。
『お小遣い』なる物が少しずつ、すこ~~~っしずつ。
因みに、使わなかった場合は当然船のお財布にご返却である。
その金はもっぱらクルー達の日用品だとか、趣味へを姿を変えて戻ってくる。
本だったり、ハンマーだったり、薬草だったり、くだらない玩具だったり。
食料品店を一巡し、あらかたの買い物を終えたサンジは、ふと何の気なしに一見の雑貨やの前で立ち止まった。
店先に並べられたこまごました小物類がかわいらしく、微笑ましかった。
ナミあたりが好きそうなシンプルなアクセサリーや、なんだか意図の分からない奇妙な箱。
ほとんどが手作りなのだろう、作り手の想いが伝わってくるようで自然と笑みがこぼれる。
しばらく眺めて、何の気なしにずらした視線の先、他の品々に埋もれるようにして置かれている小さなオルゴールに気がついた。
大層な装丁など何もなく、銀色の仕掛けの上から透明のプラスチックのカバーを申し訳程度に被せた、ほんの安物。
むき出しでないだけましだろうと、そんな声がどこかから聞こえてきそうで笑った。
手に取るとすっぽり手のひらに収まる小さなそれは案外重さがあった。
オルゴールは好きだ。
飾り気のない、澄んだ音が好きだというのもあるが、本当に好きなのはヴィジュアルの方。
丸い筒から突き出た突起の一つ一つがそれぞれに弦をたたき、つたないその響きが集まって美しい音楽を作り出す様を見ているのが好きだった。
それは世界の在り方なのだ。そう、サンジは思っている。
この細く短い棒の一つ一つが今ここにいる人々の姿なのだ。
彼らが動く事で微かに音が鳴る。
それが寄り集まって『音楽』という世界は出来上がる。
ひどく心地のいい世界だ。
ゆっくり緩慢に回転しながら光を反射して輝く。
自分という存在もこの壮大な世界を作り出す一つの要素なのだと教えてくれているようなそれが好きだ。
助かってよかったのだ。
生きなければならないのだ。
世界を。自分のための世界を、作り出すために。
生きようと、どんなに空回ってもまだ音を鳴らすチャンスがあるのなら生きなければ。
見る度にそう思う。
それは誓いであり、祈りであり、願いで、想い。
気を緩めると自分の命を救った男のために生きそうになる自分への戒めだ。
自分は、自分のために生きるのだ。それが、許されているのだから。望まれているのだから。
側面についていた螺子を摘んでゆっくりと回す。
静かに、漂うように流れる音楽。
『星に願いを』
買おうかと迷って諦めた。
生憎と、今日はもう紅茶の葉を買ってしまっていて持ち合わせがない。
どうしてもという訳ではないのだし、そう、胸中で溜息をついて鳴り終えたそれを元の場所に戻そうと手を伸ばす。
「なんだ、買わねぇのか」
驚いて振り返ると、いつからそこにいたのか見慣れた緑の腹巻が不思議そうな顔で立っている。
やけに嬉しそうに見てたから、てっきり買うのだと思っていたのだとそいつは言う。
金が残っていないのだと、素直に答えてから急に気恥ずかしくなって手の中の物を早々に戻してゾロの横をすり抜ける。
「・・・・買ってやろうか」
俺には理解できない趣味だが、欲しいんだろ?
聞き違いかと思った。
だが、目の前の男は冗談を言っている風ではなくそれどころかその逞しい腕の中には既に例のオルゴールが体をすくませているのだ。
いらないと、口を開きかけて声にならなかった。
妙なところで嘘のつけない自分がもどかしい。
一度店の奥へ消えたゾロが戻ってきて目の前に小さな包みを突き出すまで、不覚にもサンジは呆然とその場に突っ立ってる事しか出来なかった。
「ほら」
「あ、あぁ、わりぃ」
未だ上手く回らない頭から必死に命令を送ってぎこちなく腕を動かす。
再び手の中に納まったそれはなんだか先ほどよりも重かった。
欲しい酒が見つからなかったんだ。このまま持って帰るのも癪だったから使った、それだけなのだと。
そんな言葉を乱暴に付け足してからゾロはまた来た時と同じようにふらりと何処かへ行ってしまった。
離れていく背中を見ながら泣きそうになった。
彼は知っていたのだろうか、今日が何の日か。
今日という日に、オルゴールを贈るということが自分にどれほどの想いを与えるのか。
彼は知っていたのだろうか。
いや、知りえるはずがない。
今まで一度もそんな話をしたことなどなかったのだから。
もしかしたらナミには何かの拍子に生まれた日くらいは言ったかも知れないが。
あの、イベントにはとことん無頓着そうな男が。
己のそれでさえも『興味ねぇ』で終わらせそうな男が、自分の誕生日を知っていて尚且つプレゼントをと考えることなどあるとは思えない。
でも、正直どちらでも良かった。そんなことは。
知っていてくれたのだとしたら嬉しい。
知らなくて、たまたまだったとしても、やはり嬉しい。
自分はその程度には彼の中にいるのだから。
サンジは手の中の包みを大事そうに荷物の中に紛れ込ませ、急ぎ足で船へと戻っていった。
船に戻ると、探していた人物は幸い既に甲板に陣取ってなにやらごちゃごちゃした物を弄っていた。
いったいなんだろうと己の内にわいた好奇心を抑えつつ声を掛ける。
「ウソップ」
「おぉ、早かったなサンジ」
「あぁ。ウソップ、ちょっと頼まれてくれ」
「?」
不思議そうに首をかしげる狙撃手を待たせ、いったんキッチンに荷物を置いてから例の包みだけを持って外に出る。
「これをな、こう、ちょこちょこっっと取れねぇか」
「まぁ、それくらい簡単だけどな~。いいのか?意味ねぇだろ」
訳が分からないといった体で発せられた言葉にいいんだと笑って。
それでも尚納得のいかないらしい相手を促した。
少しして、手の中には小さな小さな銀色の短い棒と、キレイに一音だけ飛ばしたオルゴール。
そいつが帰って来たのは、もう夕食の支度も整い、食欲旺盛な船長が暴れだした頃だ。
『ご飯は全員で』が基本の彼らは甲板に姿を現した最後の一人を見て安堵の溜息とともに非難の視線を向けた。
その全てを受け流し、さらりと言ってのけるには。
「わりぃ、迷った」
その一言で全員が呆れて何も言えなくなってしまった。
かくして、穏やかで楽しい晩餐が始まるのだ。
その光景を眺めながらサンジはひどく楽しげに笑った。
あの小さな部品は大事にビニールの袋に入れてポケットに忍ばせてある。
今、は渡せないだろう。
周りの目があるし、すぐにどこかに行ってしまいそうだ。
誤って胃袋の中に、という事にもなりかねない。冗談でなく。
とすると今夜か。
不寝番のゾロの所に夜食を運ぶついでに潜り込もう。
そんな事を考えて、笑みは一層深くなる。
「あ?なんだこれ」
「いいから、お前は黙って持ってりゃいいんだって」
夜、サンジが持ち込んだ酒を美味そうに飲み下す奴の鼻先にそれを突き出すと予想通りの反応が返ってきた。
今自分が決行している陳腐な計画の下らなさ加減とあいまってそれは多大に笑いを誘う。
失くすなよ。
サンジは尚もゾロに押し付けながら言い募る。
意味など分からなくていい。ただ、持ってて欲しい。
オルゴールは世界の象徴なのだ。
あれの作り出す音楽は今自分が生きているこの世界そのものなのだ。
自分は、自分達はその世界を作り出す必要最低限の部品なのだ。
彼に、持っていて欲しかった。
俺の世界を作り出すための部品。
それがなければ俺の世界は完成しない。
いつまでも、不十分なまま、舌足らずな幼子のようにくるくると意味もなく回り続ける。
いつか、互いの野望を叶えたその日には再び一つに。
その日を共に迎えられたら。
それは誓いであり、祈りであり、願いで、想い。
夜の静寂に、安っぽい小さなオルゴールを掲げて。
その止まったままの空気の間を縫うようにさらに静かに流れる『星に願いを』
途中で不自然に途切れるその不完全な音楽は、いつかまた有るべき姿に戻るのだろう。
大切な己の一部を取り戻し、心地よい響きを、世界を。
♪~・・・When you wish upon a star,your dream come true. ・・・・・~♪・・・・~・・・・
2004年 サンジ聖誕祭