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謡 陸葉
性別:
女性
職業:
社会人1年生
趣味:
読書・観劇・スポーツ観戦
自己紹介:
活字と舞台とスポーツ観戦が大好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
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視界を遮るのは、何の力もないただの朝靄。
それでも、真っ白な世界に包まれて一人きり。

眩暈がしそうだ。

 

 

******************


夜が明ける前に目が覚めた。
ぼんやりと部屋を見回して、一つだけ空のハンモックに目を留める。
そういえば昨夜は見張り番だったかと、覚め切らない頭で考えた。
普段からクルー達の朝食作りに一番遅く寝て、一番早く起きている。
そういう性分なのだろうが、毎日毎日大変だなと、ゾロは静止したままのハンモックを見詰めた。
丸くくりぬかれた船窓からはかすかな明かりが差し込んでいる。
船が朝を迎えるにはもう少し掛かりそうだ。
寝直す気も起こらずに、どうせなら代わってやるかと気だるげな欠伸を一つして冷たい床に足を下ろした。



デッキへと続く扉を押し開けると、一瞬視界が真っ白になった。
思わず瞠目してしまった自分が馬鹿らしい。
何の事はない、ただの朝靄である。
何も見えないように感じたのは本当に少しの間で、徐々に周りの物がしっかりと輪郭を現し始めた。
しかし、はるか上空、物見台にいるはずの人物の姿は確認できない。
メインマストの半分を過ぎた辺りから、すっぽりと雲に覆われるように隠されている。
空気中の水分が液体となって肌に付着し、不快感を煽った。
目的地があるだろう場所を見上げて、どうしたものかと逡巡する。


と、次の瞬間、顔面に硬い革靴がぶち当たった。
靄の中から実に楽し気なバカ笑いが聞こえる。
ゾロは怒鳴りたいのを必死でこらえ、こめかみの辺りをひくつかせながら顔から靴をひっぺがす。

と、第二派襲来。

空気を震わせる笑い声が一層高くなる。
これにはとうとうゾロもキレた。


「何のつもりだクソ眉毛!!」

「お~いマリモ~ちゃんと受け止めろよ~?」

「あ?うけっ・・・げっ」


急に意味の分からない事を言い出した見えざる人にその真意を質そうとする。
が、その声は突如として靄を突き破って現れた白い足によって阻まれた。
瞬時にしてその意味を悟ったゾロは慌てて中空にその鍛え抜かれた両腕を差出す。
その中にすっぽりと納まる様に落ちて来た体を受け止め、しかし結局バランスを崩して大仰に尻餅をついた。

「いっつっ・・・・」
「なっさけねぇなぁちゃんと受け止めろっつっただろ」
「いいからさっさと下りやがれ」
「嫌だね」


お~すっげぇ~上の方はマジで何も見えねぇなぁ~。
自分の腹の上で暢気に上を見上げているサンジ。
何やら満足げなその姿に先程の怒りがすっかり消えてしまった。
こいつのやることはいつも突飛で訳が分からないのだからそれに一々反応していたのでは埒が明かない。

「そういえばお前やけに早起きだな?」

どうかしたのかと今更ながらに聞いて来る相手に口を開きかけて止めた。
メンドクセェ。

「もういい。やめだ。俺は寝る」
「なっオイこらテメェ!人が折角、って寝てんなよ!!」


自分を乗せたまま鼾をかき出した相手をとりあえず力任せに揺さぶってみるが当然効果は無し。
平和そうな寝顔に苦笑がもれる。
妙に厚い朝靄の層は、自分だけが他の全ての物から切り離された様な錯覚を作り出すから。
船室から出てくる姿を見た時、メチャクチャほっとしたなんて絶対言ってやらないけれど。
取り残された世界でも、こいつがいればいいかななんて。

サンジはしばらくゾロの寝顔を眺めた後、自分も折り重なるようにして上体を倒した。
もうすぐ太陽が勢いを増して、自分達を包む朝靄は掻き消えてしまうけれど。
それまでは、わずかな時間でもいいから、この愚かな二人をその思い諸共覆い隠してくれと静かに祈って。
暖かな温もりに身を委ねて、目を閉じた。






 

2005年 4月
朝靄=『ちょうあい』

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