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謡 陸葉
性別:
女性
職業:
社会人1年生
趣味:
読書・観劇・スポーツ観戦
自己紹介:
活字と舞台とスポーツ観戦が大好き。
コナンとワンピに愛を注ぐ。
4つ葉のクローバーに目がない。
寝たがり。
京都好き。
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甘い。
甘い。

チョコレートに、さくさくのクッキー。
かわいい包みに、リボンを添えて。


一年のうちで一度だけ。
甘い甘い、今日と言う日。



******************



とりあえず、今の自分達は恋人という立場にあるらしい。
相手のことを好きだという自覚は、アル。
だが、そう認識したところでそれらしく振舞えるかと言われればそれは全くの別問題なのだ。
妙な維持というか、男としてのプライドと言おうか。
とにかくそう言った類の物が邪魔をして、いつも可愛くない態度を取ってしまう。
最も、奴に可愛いなどと言われても嬉しくはないのだが。
そんな事を考えて、サンジは一人大仰な溜息を付く。
今日は2月14日。
世間で言うところの、バレンタインである。
この日は自分の大切な人たちに日頃の感謝を込めて贈り物をしたりする日なのだと、昔誰かに教わった。
一年に数回訪れる、バラティエの客が5割り増しになる日でもある。
去年は忙しかったよなぁ。
だが、今年のこの穏やかさはなんだろう。
まぁ、別にそれはそれでかまわないのだが・・・。
サンジは今、航海の途中で立ち寄った島のそれなりに大きな港町のホテルの一室にいる。
厳密に言えばその部屋に備え付けてある小さなキッチン。
更に言えばバレンタイン用のお菓子作りの真っ最中である。
オーブンからは、先ほどからとても美味しそうな甘い香りが漂っている。
それに誘われてか、奥の部屋からトテトテと小さな影がやってきてサンジの足に擦り寄った。

「ん、お前も欲しいのか? もうちょっと待ってな。すぐ出来る」

小さな影は、サンジの言葉を理解したかのようにちょこんと床に座り直してしっぽを振った。
その様子にやわらかく微笑んだサンジが優しく頭を撫でてやると、嬉しそうに一言『ワン』と啼いた。

昨日の話だ。
この島のログが溜まるのに2週間掛かると知ったクルーはとりあえず宿をという事になった。
偶には丘の上でゆっくりと羽を伸ばしたい。
それは全員の共通意見だった。
即座に手ごろな宿を取り、それぞれが散って行ったのが昼過ぎ。
適度に遊んでバラバラと宿に集まりだしたのが10時頃から。
だが、一向に帰ってくる気配を見せない船長に一同が不審に思い始めた頃、廊下をどたどたとやってくる足音が聞こえた。
それに安堵を覚えたのもつかの間、勢いよく開け放たれたドアの前に立つ彼を見たクルー達は皆一様に天を仰いだ。
曰く、『海賊が仔犬など拾って来るな』

ナミがルフィーに大型の雷を落とし終わった後、全員で話し合った結果、とりあえず引き取り手を捜そうということになった。
幸い、この島の滞在期間は長い。
手分けして回れば誰か一人ぐらいは見つかるだろう。
万が一見つからない場合は、可愛そうだが元いた場所に戻してくるという条件付で。
渋々といった風に頷くルフィーを見て、サンジは苦笑した。
全く、この男は自分の立場が分かっているのだろうか。
気に入った物ならなんでも拾っていいという訳ではないだろうに。
まぁ、実際自分も拾われたうちの一人なのだが。
聞くところによるとここにいる全員が似たような物らしい。
思わず目の前の毛むくじゃらの塊と部屋の角にいる男とを重ねて目元が緩んだ。

そんな訳で、今頃は皆町で里親探しの真っ最中である。
ただし、無愛想と凶悪面が売りの剣士様を除いて。
ナミ曰く、奴は戦力外なのだそうだ。
本人はそれに対して不満そうな面をしていた。正直ざまぁみろだ。
サンジはと言えば、ほっとくと何を与えるか分かったもんじゃないという事で、仔犬の世話係として残された。
要するに、一人と一匹のお守が今日のお仕事内容だ。
ナミに頼まれた手前、そうそう出かけるわけにも行かず、どうせ暇だからと昨日買っておいた材料に手をだして今に至る。
全員で食べる用に甘さを控えた大きなチョコレートケーキ。
上質のチョコをゆっくり丁寧に溶かしてブランデーを加えた特製のトリュフ。
チョコチップを贅沢に使って焼き上げたサクサクのクッキー。
どれもサンジの愛の篭った自信作だ。
チョコとクッキーは更に一人一人の好みを考えて作った専用の物を小分けにラッピングして渡すつもりだった。
その為の包装紙やリボンにまで余念がない。
そこまでこだわるのも、相手の喜ぶ顔を想像すればこそだ。
喜んでもらえればこちらとしても用意したかいがあるという物だし、がんばりもする。
だが、しかし、だ。
ゾロに対してだけは少々勝手が違った。
渡す事に躊躇いがある。
自分の作った物なのだから不味いわけがない。
そう思ってはいるし、そこには疑いの欠片もないのだが、何故だか渡すのが恐いのだ。
どうやって切り出せばいいのかが全く分からない。
世の女性達はこんなに大変な思いをしていたのかと、妙なところで感心する。

まぁ、そんなことはその時になって考えればいいかとサンジはいい具合に焼きあがったクッキーを取り出して満足そうに目を細めた。


ケーキを冷蔵庫に入れ、代わりに冷やしておいた個人用のチョコレートを取り出す。
それと、先に焼いておいたこちらも専用のクッキーが冷めているのを確認してそれを手に奥へと向かう。
サンジの足元を仔犬が嬉しそうに付いて来た。
踏まないように注意しながら部屋に入ると、壁に寄りかかったいつもの体勢で爆睡中の男が目に入る。
それに溜息をつきながらも予想はしていたのであえて無視を決め込んだ。
テーブルの上にチョコとクッキーをのせ、一人一人丁寧にラッピングしていく。
その作業はとても幸せな気分になる物で、サンジの口元は自然、綻んでいる。
傍らに座ってじっとサンジの手元を追っていた仔犬が胡坐をかいた膝に前足を乗せてテーブルの上を覗き込んだ。
物欲しげにサンジを見上げて鼻を鳴らす。
その姿に苦笑して、袋に入り切らなかった分のクッキーからチョコレートのついていない所を小さく割って口元へ持っていくと仔犬は嬉しそうにそれを咀嚼した。
一時作業を中断し、美味そうに食べる仔犬を眺めながらサンジも一つ口に含む。
口の中に甘い味が広がった。
と、食べ終わったらしい仔犬が今度はサンジの指に付いたわずかな欠片をなめ始めた。
そのこそばさと、全く別の行為を連想して思わず身を硬くする。
不意に仔犬を抱き上げる手があった。
見上げると、いつの間に起きたのかどことなく機嫌の悪いゾロがたっていた。

「何やってんだ、お前」
「何って・・・バレンタイン用にだなぁ、その、全員分のチョコとかクッキーを、包んで・・・」
「ふ~ん」

意味もなくたどたどしくなってしまった己の答えに何故か焦った。
そしてそのまま腰を下ろしたゾロが、テーブルの上に手を延ばすのを見て更に慌てる。

「ちょ、待て!それはウソップ用だ」
「あ?」
「お前のはこっちだ。食うならこれ食え!」

まさに今ラッピングされようとしていたウソップ用の物をゾロの手から奪い取り、少し隅に押しやられていた相手の分を包装紙ごと押し付ける。
まだラッピングはされないままだったがそんなことを言っている場合ではなかった。

自分の作ったそれを目の前でゾロが咀嚼する。
その当たり前の見飽きた行為に、何故か動揺した。馬鹿らしい。きっとこれはあの仔犬のせいだ。

仔犬が、今度はゾロの物をねだりにかかる。
それに対し、ゾロは大人気なく『お前にはやらねぇ』などと言って両手を高く上げている。
その光景がなんだか無性に嬉しくて、幸せで。
サンジは身を乗り出すようにしてキスをした。
口内に、先ほどとは違う甘さが広がる。

今日はバレンタイン。
大切な人に、感謝の気持ちを伝える日。
そんな日ぐらい、素直になってやらなくもない。


一度かすかに離れた唇で小さく睦言を囁いて、サンジは深く甘い口付けに没頭していった。

 

 

 

 

 

2004年 バレンタイン

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